逆コース
- | comments(0) | - | withwestie |
毎日平凡に暮らしているようでも、ほんとうはヒリヒリするような危機感に包
まれている。今ほど個人と政治が直接的につながっていると感じたことはない。
良い方向へ、ではなく、行ってはならない方向へと押し流される感じだ。
個人の暮らしの土台から国の行く末までが、≪行政府の長≫(実質的には立法府
の長であるとも思っているらしい)であると胸を張る人間の、悪法の連発と滅
茶苦茶な国会運営のなかで壊されていく。悪夢としかいいようがない。ここま
で勝手し放題ができるものだろうか? 自称先進国が聞いて呆れる。≪多数派≫
という数のおごりと、≪有権者≫の無知・無関心につけ込み、どうにでもコント
ロールできるという傲慢さを強く感じる。〈主権者〉である私としては実に我
慢のならない事態である。
先日信州の古書店から届いた『母親教室』という冊子は、1952年秋〜53年春
までの5冊で、しつけや生活の実用記事だけでなく、PTA活動の座談会や、女
性町議のインタビュー、信濃毎日新聞の論説委員による「教育は誰のものか」
や吉田内閣の不信任案可決による次の選挙に向けて「今度こそ正しい一票を」
と呼びかけるコラムもある。発行所は東京だが、実質的には長野で発行されて
いたようだ。
52年11月号に、東大総長矢内原忠雄の講演録「新生日本の道」が掲載されてい
る。この年の夏に長野県寿小学校PTAが主催したものだ。そこに次の言葉があ
った。
〈日本が独立以来、いろいろな困難に当面していますが、第一の問題は、日
本の国際的地位からくる問題で、昨年の講和会議によっていわゆる西欧民主
主義陣営の一翼になったことであります。その結果、日本はアメリカの軍事
基地と化し、今後相当長い間この状態におかれるわけであります。日本がア
メリカ陣営に投ずることによって、果して平和が維持されるか、再び戦争の
危険にさらされるかということについて、考えてみたいと思います。〉
〈日本が再び敵というものをもったら日本の不幸であり、世界人類の不幸で
あります。新生日本は、古い日本のまゝを再びくりかえすようではなりませ
ん。〉
同誌の翌月号には、平和推進国民会議議長の随筆にこう書かれていた。〈今年
もくれてゆきます。七年前の敗戦をけろりと忘れて万事逆コースをゆく日本は、
これでよいのでしょうか〉と。朝鮮戦争を機にマッカーサーが日本の再軍備を
提唱し、冊子が発行された52年8月に自衛隊の前身である保安隊がおかれた。
戦争の悪夢いまだ冷めやらぬこの時期、これらの発言には今よりはるかに強烈
な危機感があったはずだ。
この時、日本は逆コースをとった。けれど≪朝鮮戦争特需≫に浮かれ、高度経済
成長の波に乗り、私たちはその危機感をどこかに押しやって生きてきた。私が
今見ているのは、紆余曲折を経ながらも、逆コースを歩き続けてきた末に露わ
になった、敗戦以前の日本にもどる道……。米国の言いなりに高額な兵器を買
いあさり(押しつけられ)、多額の防衛(軍事)予算を平然と計上する。
すべてが異様な状況である。